今回の野田市を被告とした国家賠償請求訴訟の裁判は、2015年当時、野田市郷土博物館・市民会館の指定管理者だったNPO法人野田文化広場(2019年3月31日付けで指定取消し、同日付けで法人も解散済)が同館の不正常な利用があると市教育委員会に不実の報告を行い、その結果、市民に対して同館の無期限利用禁止や行政文書の開示請求の却下の行政処分などが行われたことに対するものでした(既にこれまで報告しましたとおり、この裁判に先立って争われた、2つの関連裁判でも同法人と野田市が敗訴し判決も確定していました)。
同裁判の判決が2019年12月3日に確定し、判決主文で命じられた、市議会会議録の一部削除と賠償金の支払いも12月5日までに全て履行されました。
国家賠償法には、行政活動の適法性や法治主義を維持する機能があるとされていることからも、今後は、判決で示された手続違法などの問題について再発防止に向けた反省と策定が求められるものと思います。
そこで、今回の判決で示された争点とそれに対する千葉地方裁判所松戸支部民事部 江尻 禎 裁判官の判断を要約して以下に示します。
(1) 市政メールや開示請求、住民監査請求など(以下、市政メール等とする)が業務妨害だとして文化広場が教育委員会にした報告が違法か否か
市政メール等は、市政改善につながったというのであるから、それらが業務妨害行為として行われたとは認めがたい。かつ、文化広場がそう判断することがやむを得ないと認める事情にも欠け、証拠もない。よって文化広場の報告は、十分な裏付けに欠けるもので違法であると言わざるを得ない。
(2) 郷土博物館、市民会館の利用禁止処分の手続き上の違法性の有無と賠償責任の有無
不利益処分であるから手続き条例13条に基づき処分に先だち意見陳述の機会を与えるべきところ、文化広場は、それを行わず、かつ教育委員会も承認に先立ち意見陳述の機会を与えたか否かに留意することなく承認しているのであって、手続き条例13条に反することは明らかである。よって、不正常な利用状況の有無を判断するまでもなく、重大な手続的瑕疵により違法であり、不法行為により被告が被った損害について国家賠償法1条1項に基づき野田市は、慰謝料13万円の賠償責任を負う。
(3) 議会本会議と総務委員会での答弁内容の違法性の有無と賠償責任の有無
本会議での市長答弁では、市民Aとして氏名等を明らかにせず行われたものであるから名誉棄損とは言えない。一方、総務委員会での生涯学習部長の答弁は、住所氏名が司会の進行の下で明らかにされており、生涯学習部長の答弁を含む総務委員会会議録を一般の閲覧に供する状態として公開したことをもって、名誉を棄損したもとと評価することができる。
そもそも答弁内容が調査不十分なもので利用禁止処分が違法と言わざるを得ない以上、それを前提とする内容を公表したことについて、野田市として責任がないとは到底いえず、生涯学習部長の答弁は名誉を棄損する不法行為を構成する。野田市は、慰謝料30万円の賠償責任を負う。加えて、野田市議会ホームページに掲載された総務委員会会議録の内、生涯学習部長の答弁の一部を削除。
会議録自体の事後の訂正削除は地方自治法123条で認められない。原告の社会的評価の低下を招いたのはの市議会ホームページにおいて公開されたことから広く一般の閲覧に供したからであるからその削除で足りる。
(4) 開示請求却下、不服申し立て却下処分の違法性の有無と賠償責任の有無
文化広場の報告内容を事実と認めるには不十分であり、この事実を前提に権利濫用とすることは認めがたいところ、教育委員会は情報公開条例16条が規定する審査会諮問すれば、文化広場の報告内容の真偽を正確に確認する機会になり得た可能性もあるにもかかわらず、条例に反して諮問せずに却下し、取消し訴訟の提起を余儀なくさせているのであって、教育委員会が行った処分は市民の知る権利の保障に反するものであって、野田市は不法行為責任を免れない。野田市は、開示の遅れについて慰謝料1万円、取消し訴訟の追行を余儀なくされたことについて慰謝料5万円の賠償責任を負う。
(5) 部分開示決定不服申し立ての1年5ケ月放置の違法性の有無と賠償責任の有無
不服申し立てへの判断期間について法令上の規定はないが、総務省の申し合わせで示された目安に照らしても1年5ケ月にわたる不作為は、教育委員会の職務義務に照らして違法であり、不法行為を構成し、野田市は慰謝料5000円の賠償責任を負う。
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